そよそよと風に揺られる木々、光を反射して輝く湖。自然に溶け込むSANU CABINは、現在年間100棟を目標に建築を進めている。ただ、考えてみてほしい。「建築をつくること」は、地球温暖化の大きな要因のひとつだ。あるリサーチによれば、建物の建設と運用は世界のエネルギー使用量の約35%、エネルギーに関連する CO2 排出量の約40%を占めているという。これではSANUが掲げている「Live with nature.」というコンセプトは矛盾に終わる。だからこそSANU、そしてADXは、この難しいチャレンジに本気で向き合ってきた。

_その土地の生態系を守りながら、自然の中に建築をつくる
最初のSANU CABINは白樺湖・八ヶ岳に完成し、これから各地に増やしていく計画だ。キャビンの建設が予定されている土地はどこも美しく、自然の中で生活を営む喜びを味わうことができる。
今回、建築のあり方から「Live with nature.」を表現するため、2nd Homeとしてのデザインと快適性を充実させながらも環境負荷を最小限にするさまざまな工夫を施した。まず基礎部分に関しての工夫から紹介したい。「キャビンが地面から浮いている」ことにお気付きの方も多いかと思うが、従来の別荘開発では、敷地の木を切り倒し土を削る大規模な造成や大量のコンクリートを使った基礎工事など、建物をつくる土台を整える時点ですでに周辺環境への負荷が大きいことが課題であった。
そこで、SANU CABINでは木の伐採や地形の変化を最小限にするようキャビンを配置、傾斜の大きい山地でも最大傾斜30°まで対応できる独自の”杭打ちマシーン”を開発し、コンクリートは一切使わずに高床式の杭工法を採用した。これにより元来流れていた風を止めることなく、大きな木のそばで守られていた草木や小動物の住処も損なわない。土の成分への影響も最低限となる。そうして、場所の生態系を壊すことなくキャビンを建てることができる。地中に杭が深く固定されることで横風や積雪にも耐えられ、人間にとっても自然の中で安全に過ごせる場所となる。
人が自然と共にあるための建築を実現するには、人間中心ではない視点でその土地を見つめることが重要だ。
_森と繋がるサプライチェーンから考える
次に、キャビンの構造を支える素材には、100%国産の木材を使用している。一般的に構造に使われる素材には鉄やコンクリートという選択肢もあるが、僕が思うに”木”は最もサステナブルな建材だ。植林して育てれば60〜100年後には建築に使えるほどに成長し、唯一人と共存できる素材だと考えている。さらに言えば、調達・施工・解体・廃棄のライフサイクルを通しての CO2 排出量も、鉄やコンクリートに比べて圧倒的に少ない。
SANU CABINでは、時が経ちキャビンを解体したときにもまた新しい用途でリサイクルできるよう、極力接着剤や釘を使わない工法で木を使用している。必要になれば、キャビンをまるごとバラして移設することだってできてしまう。大人のプラモデルというと近いかもしれない。
ではその木はどこからくるのかというと、岩手県釜石の森。釜石地方森林組合との協業で、サプライチェーンを構築した。SANUからは事業計画を、ADXからは使用する木材の量、加工情報や施工スケジュールを事前に提供することで、森では原木伐採から計画的に取り組むことができる。直接やりとりすることで、林業や製材に関わる人々と、設計・施工者、そしてサービス運営者であるSANUが繋がる。顔が見える関係性で想いを紡いでいくこともまた、新しい取り組みだ。
“使う分だけ伐採する”、将来的には“使う分だけ育てる”など、キャビンを作れば作るほど自然環境にとってプラスの影響を生むことができるリジェネラティブな建築を生み出そうと取り組んでいる。

_自然と人とが共生する未来に向けて
建築は使い捨てではない。僕ら建築に関わる人間が想像力をはたらかせ、地球上にある有限の資源をどこからどう使い、どのように次のステージを用意するかを示さねばならない。SANUを通じて、ただキャビンをつくるのではなく、次世代につづく持続可能な建築の未来をつくっている。本番はこれからだ。
