Project Name

五浦の家

Timeline

2014

Location

茨城県北茨城市

Project Type

住宅

Status

Completed

Detail

木を育てながら暮らす漁師の住まい

茨城県の北に位置する五浦。この町は昔から漁業が盛んである。景色に惚れた岡倉天心が終の住処として愛した場所で、近くには、天心が設計した六角堂や、天心記念五浦美術館がある。建主は漁師で、先祖は天心のそばで舟の付き人をしていたという。当時、天心が教えとして「漁師は山に木を植えろ」という言葉を残したと聞いた。川の上流にある山の豊かな森林が多くの栄養分をつくる。栄養分のある水が、雨水から川に流れ、海に流れ着いて広がることで魚の生体関係がよくなる。漁場の仕事を豊かにする原点は山であり、豊かな森林だということを代々受け継ぎ伝え続けている。「五浦の家」は、その先祖から受け継いだ山の土地を利用して住宅を計画した。

急な南傾斜のため、まずは敷地の計画が重要だった。造成してかたちを変えるのではなく、現在の形状に合わせて、極力既存の樹木を残すことをルールとした。山の傾斜面を測り、形状をモデル化することで、傾斜地の中でいくつかの平らな面が浮かび上がり、それを線で繋いでみる。点から線を見つけ、線から面を導くことを繰り返し、住宅を建てるのに最適な環境となる位置を選び 建物を計画した。アルファベットの「V」のように広がる建物は、左右で住環境を分けて計画し、木とガラスというシンプルな素材で構成した。室内からは、まるで森の中にいるような木漏れ日が不規則に入り込み、見え隠れする景色の先からは四季の移ろいを感じ、五感を刺激し目を楽しませてくれる。

五浦の海、岡倉天心六角堂近傍の本敷地は、縦に岩盤層が隆起した天然の「基壇」、丘の一角にあり、平屋居室部を後方の丘より谷側に突出させた木造懸造の構成である。2方向に突出した棟屋先端部下とその付け根部下の計3箇所、岩盤部に直接コンクリート(スランプ8cm)を盛上げた高さ3m程度の円錐型「礎石」を設ける。そこから基本下部2重、上部1重輪列からなる140φ丸太材を放射状に並べた「束」群を設け、それと丘の間に360~800mm成の木梁を架渡し、人の営みの「床」をあらためて海(谷)と山(丘)の間に成立させている。木造外周壁は、内外装を担う120mm厚の木ブロックを斜めに配し、耐力壁として機能させた。

『漁師は山に木を植えろ』という天心の教えにならい、地元五浦の漁民らの手により約60本の植樹を行った。元の山に戻す事で地域にも環境にも新たな潤いを与える。代々住み続ける家族が、今回植えた木を手入れし、森を育て、海を豊かにする。将来この育てた木は、この住宅の次なる変化の材料として使う日がくることを期待している。建築は、木々の成長と共に育ち木々と同化する。